FedorsのSP値推算方法
化学の分野で用いられる相溶性パラメータ(SP値)ですが色々な推算方法が提唱されていますね。その中でFedorsの原子団寄与法は手計算でもとても簡単に推算できるので、便利で大学の講義の試験などにも出題しやすいため人気です。
そこでFedorsの原子団寄与法による計算方法について解説します。
Fedors法が生まれた経緯
そもそもHildebrand氏が提唱したSP値という概念はどのように実験から求めれるかというと求めたい温度での蒸発エネルギーをモル体積で割った値の平方根がSP値なので、蒸発エネルギーとモル体積を求めることで実験的に求められます。「1ccの化合物を同じ温度の気体にするのに必要なエネルギーの平方根」というような表現もされます。
式で言うと下の(1)式です。
δ = (ΔEv/V)½ 式(1)
R.F.Fedors: Polym. Eng. Sci., 14〔2〕, 147-154(1974)
(δ:SP値、ΔEv:ある温度での蒸発エネルギー、V:モル体積)
それで、普通の圧力・温度で蒸発する低分子の溶剤などは実験的に求められるのですが、残念ながら大抵の高分子は蒸発する前に分解してしまい蒸発エネルギーが求められないため、実験的にSP値は求められないということになります。
そこで、分子構造から簡単に推算する方法を考えたのがFedors氏です。
このような考え方を提唱したのはFedors氏が最初ではないのですが、約20年先行して提案したSmall氏の方法では密度を実験的に求める必要があるのに対してFedors氏の方法ではモル体積も構造から推定するため、完全に分子構造のみから推定できることが利点です。
※液体ですと密度は簡単に求められますが、高分子は固体の場合がほとんどで、空気を完全に抜いて密度を測ることが意外と難しかったりします。
そして完全に分子構造のみから推定できるので筆記試験にも向いているということになります。
Fedors法は分子構造を構成するグループに分けて推算する方法
Fedors法は化学式が分かっている分子であったら、化学式を構成するグループに分けてそれぞれのグループごとに気化エネルギー算出し、それを足し合わせることで分子全体の蒸発エネルギーを推算します。次に、蒸発エネルギーと同様の方法でグループごとにモル体積を算出し、足し合わせることで分子全体のモル体積を推算します。この推算した気化エネルギーとモル体積からSP値を求めるという方法です。
1-プロパノールでの計算例
本来、高分子用の推算法ですが一部の低分子にも適応できるのでまずは低分子を例に推算法を説明します。
1-プロパノールを考えてみます。
1-プロパノールは「-CH3」1個、「-CH2-」2個、「-OH」1個からなります。
Fedorsが決めた原子団ごとの蒸発エネルギーと分子体積は下表のようになるので
蒸発エネルギーはそれぞれの原子団の蒸発エネルギーを足し合わせて
1125 + 1180×2 + 7120 = 10605 cal/mol
となります。
一方、モル体積(モル分子容)は
33.5 + 16.1×2 + 10.0 = 75.7 cm3/mol
となります。
したがって、1-プロパノールのSP値のfedors推算値は
(10605 / 75.7 )^0.5 = 11.84 (cal/cm3)^0.5
となります。
文献によると1-プロパノールのSP値は11.97なので0.13程度の差がありますが推算できていると言えます。
PMMAの例
続いて本題の高分子の計算例を紹介します。
PMMAは上図のような構造式となります。この化学構造式から原子団の数をカウントすると下表のようになります。
原子団 | PMMAの繰り返し単位に含まれる数 |
---|---|
CH3 | 2 |
CH2 | 1 |
C | 1 |
C(=O)O | 1 |
PMMAの繰り返し単位の蒸発エネルギーはそれぞれの原子団の蒸発エネルギーを足し合わせて
1125x2 + 1180 + 350 + 4300 = 8080 cal/mol
となります。
一方モル体積では高分子の場合、単純な原子団の足し算に加えて補正係数が追加されます。補正係数はTgが25℃以上の高分子の場合に適応され、最小繰り返し単位の主鎖を構成する原子数mに対してm<3の場合、4m (cm3/mol)、m≧3の場合、2m (cm3/mol)が補正係数として加算されます。
すなわちPMMAの繰り返し単位のモル体積(モル分子容)は主鎖の原子数m=2なので
33.5x2 + 16.1 + (-19.2) + 18.0 + 4x2 = 89.9 cm3/mol
となります。
以上からPMMAのFedors法によるSP値の推算値は
(8080 / 89.9 )^0.5 = 9.48 (cal/cm3)^0.5
となります。
PMMAのSP値の実験値は9.27(cal/cm3)^0.5であることを考えると差は0.21で推定できていると言えるでしょう。
比重よりもTg測定する方が楽なのか
先ほどFedors法はsmallの方法と違って比重を測定しなくて良いと述べましたが、Tgは測定する必要があります。ただし、25℃よりも高いかどうかなので測定の手間としてはそこまでではありません。また、高分子を取り扱う場合はTgくらいは測定するものなので、そこまで負担ではないと考えます。
参考資料
「コーティング用添加剤の技術」CMC出版
SUH, K. W.; CORBETT, J. M. Solubility parameters of polymers from turbidimetric titrations. Journal of Applied Polymer Science, 1968, 12.10: 2359-2370.
VANDENBURG, Harold J., et al. A simple solvent selection method for accelerated solvent extraction of additives from polymers. Analyst, 1999, 124.11: 1707-1710.