MOPAC2016

最近のMOPACって商業利用も無料だったりしないのかと思い、MOPAC2016のサイトに行ってみたところ、ライセンス不要と書いてありました。ライセンス不要ってどういうことだと思い調べてみますと、ライセンスを販売していた代理店のホームページによると2021年8月より商業利用も無償化されたそうです。

MOPACとは

MOPACとは分子軌道計算をしてくれるソフトです。分子軌道計算の中でも半経験的な手法と非経験的手法というのがありまして、要するにシュレディンガー方程式近似式を解く時にイオン化ポテンシャルといった実験値をパラメータに使って楽して解くのが半経験的手法、実験値を使わずに計算で全てを求めるため時間がかかるけどより正確に計算できるのが非経験的手法です。

長くなりましたがMOPACは半経験的な分子軌道計算ソフトの代表的なソフトです。

非経験的な分子軌道計算ソフトとしてはGaussianが有名ですね。(ちなみにGaussianは半経験的な計算もできるので、Gaussianのライセンスを持っていればMOPACをインストールする必要はありません。)

計算して何がわかるのか

MOPACで計算してこの原子とこの原子の距離が〇〇Åですとかわかっても精度も低いし何の役にも立たないのではと思われる方が多いと思います。そこでどういった活用法があるかを考えてみました。

FT-IRスペクトルの予測

現場で役立つ利用法としてはFT-IRスペクトルの予測ですかね。異物のFT-IRスペクトル分析などではライブラリにある分子でしたら同定できるけどライブラリにない分子は同定できないというような難点があります。ある程度混入している分子が分かっているのであればMOPACで計算してFT-IRの予測値を計算して、異物の実測スペクトルと比較するというような利用法が考えられます。ただし、FT-IRスペクトルの予測と言っても半経験的手法ではピーク位置(○○cm-1)が10%程度ずれるのが普通ですので、高精度の予測ができるのではと期待するとがっかりするのでご注意ください。

QSAR用の分子記述子として利用する

QSARといって分子の構造から物性や特性を予測するという分野があります。予測するにも分子の構造を数値に変換する必要があるのでそれにMOPACを利用するといったことをされている方もいます。非経験的手法でも同じようなことはできるのですが、QSARの場合は何千もの分子を計算したりするのでまずは半経験的手法で相関があるかを見てみるといったやり方が有効な場合もあります。

例えば「SHI, Ying. Support vector regression-based QSAR models for prediction of antioxidant activity of phenolic compounds. Scientific reports, 2021, 11.1: 1-9.」ではMOPACで計算した標準生成エンタルピー、核反発エネルギー、COSMO面積とOH基の数(これは計算ではなく数えるだけ)を分子記述子としてQSARモデルを構築している。

タンパク質の計算

正直、低分子であれば20万円くらいのゲーミングPCでも非経験的手法で計算できてしまうので、低分子をMOPACで計算しましたというと微妙な反応される可能性が高いです。しかしながらタンパク質となると話は別です。タンパク質は構成する原子の数が多いため、非経験的手法では膨大な時間がかかり計算が終わらないといった事態に陥ります。よってMOPACのような半経験的な手法でもスクリーニング手法としてはOKといった評価をされる場合もあります。まぁあくまでケースバイケースなので、どういうストーリーの中でどういう意味付けをもってMOPACを使用したかが重要になりますが。

MOPACを使用した最近の論文例としては「CAVASOTTO, Claudio N.; DI FILIPPO, Juan I. In Silico drug repurposing for COVID‐19: Targeting SARS‐CoV‐2 proteins through docking and consensus ranking. Molecular informatics, 2021, 40.1: 2000115.」という2020年にオンラインで公開された論文があります。

こちらは新型コロナウィルス(COVID-19)のタンパク質の構造をデータベースからダウンロードして、低分子の薬の候補物質(FDAが承認済みまたは臨床中の薬)との相互作用をMOPAC2016で計算し(分子とタンパク質のドッキング時のエネルギー計算により求める)、新型コロナウィルスに効きそうな薬の候補をスクリーニングしたという論文です。こちらはタンパク質と低分子との相互作用という計算負荷の大きなタスクであることと、スクリーニングでたくさんの化合物の計算をしないといけないということ、当時は社会的に緊急性が高く早く計算できる必要があったことがMOPACを使用するリーズナブルな理由となっているので論文として認められたのかなと推察しています。

大学生・高校生の勉強用

大学生・高校生の授業での演習向けとしてはMOPACは最適だと思います。無料ですし、マシンスペックも2020年代のPCであれば低分子を計算する場合には数秒で終わります。

ダウンロード&インストール方法

  1. ダウンロードサイトにアクセス
  2. Windowsの場合は「Download stand-alone 64-bit MOPAC2016 for Windows」をクリック
    MACやLINUXの方はそれぞれ適切なものを選択してください。なお32bit版やGPU版は開発を終了したそうです。
  3. zipファイルがダウンロードされます
  4. zipファイルを開くと4つのファイルがあります。「installation instructions.txt」に英文でインストール方法が記載されています。英文読むのが苦手な人はdeeplなどで日本語に翻訳すると良いです。
  5. 手順書では「C:\Program Files」にプログラムファイルを解凍することを勧めています。ただし、Windows10ではProgram Filesに新しいフォルダを作ろうとしたり、ファイルをコピーしようとすると警告が表示されるので、気になる人はマイドキュメントなど好きなフォルダに解凍すれば大丈夫です。

実行しようとすると警告文が表示される件

Windows10ではウィルス対策で登録されていない.exeファイルをインターネットでダウンロードして実行しようとすると実行を阻止する機能があります。MOPACもその対象となります。ですので「microsoft defender smartscreen は認識されないアプリの起動を停止しました。このアプリを実行すると、pc が危険にさらされる可能性があります。」と表示されて起動ができない場合は、詳細ボタンをクリックし「実行」をクリックしてください。

関連ページ

chemistryMOPAC

Posted by Nao